すべての歯がなくなってしまって、総入れ歯になり悩んでいる方は本当に多くいらっしゃいます。
必ずしも年配の方に限らず、様々な理由から若い方でも歯を失ってしまうこともございます。
上下総入れ歯
当院では、
・外れやすい
・安定剤を毎日つけなきゃいけない
・食べれない
などといった、総入れ歯に関する様々なお悩みでご相談にいらしていただいております。
私は以前、ある喫茶店でこんなことを聞きました。
隣の席の方々のお話がたまたま聞こえてきて(もちろん私の患者さまではありませんが)、
「歯医者さんは楽よね。入れ歯はこっちが慣れるしかないんだもの。」とおっしゃっておりました。
それを聞いた瞬間、歯科医師としての敗北は患者様にそう思われることだと感じました。
やはりどのような歯の残り方で入れ歯をするにせよ、よりお口に合った、そして食事や会話をしやすくし、快適に過ごせるようにすることが大切です。
たとえ総入れ歯であっても、安定剤などに頼ることなく、ぴったりとしていて、快適な生活を過ごしていけるような治療にしなければなりません。
もし、難しい場合でもできるだけそれに近づけていくことが大切だと思います。
《快適な総入れ歯で楽しく過ごすための知っておいておくといい3つのポイント》
総入れ歯は、歯を失ってしまった時の治療として用います。
もう知っているよと思われるかもしれませんが、そこが一番大切なのです。
つまり全く歯がないということは、入れ歯を支えるための歯がないということです。
では一体なぜ、上の総入れ歯は重力などで落ちないのでしょうか?
下の総入れ歯は、お口を開けた時などに外れてこないようにつくれるのでしょうか?
もちろん、これからお話しさせていただく点を考慮していない総入れ歯の場合、外れやすいことがあるかと思います。
1、上の総入れ歯がくっつく(吸着する)理由
上の総入れ歯がくっつくためには、簡単に言うと以下の3つの要素を兼ね備えた総入れ歯にすることが理想的です。
①ウォーターフィルム現象をつくる
ウォーターフィルム現象は、小学生の頃を思い出してください。
ガラス板とガラス板の間に、1滴だけ水を垂らして板同士をくっつけると、横にずらして剥がさない限りなかなか剥がせません。
これをウォーターフィルム現象と言います。
これと同じようなことを上の顎の部分につくってあげることが大切です。
上の総入れ歯の矢印の内側につくる
総入れ歯の場合、水ではなく、唾液(つば)がその代わりとなり、上の顎にくっつきます。
この現象を総入れ歯に与えてあげることにより、外れにくくなるポイントの1つ目になります。
②総入れ歯のふち取りを大切にする
総入れ歯の“ふち取り”は非常に大切です。
矢印で示した部分が上の総入れ歯の“ふち”
ふち取りをわかりやすく言うと、、、
総入れ歯を入れた時に、入れ歯が乗っかっている部分は粘膜(柔らかい部分)、その下に骨(硬い部分)がございます。
入れ歯の“ふち”より外は粘膜(柔らかい部分)しかありません。
つまり、骨がある部分とない部分の境にきちんとふち取りをしてあげることで、入れ歯を入れた際に中の空気が押し出され、内部が陰圧になり外れにくくなります。
このふち取りを適切に行うことが、総入れ歯が外れにくくなるポイントの2つ目になります。
③総入れ歯に大切な膨らみの部分
総入れ歯には、頬や唇側に膨らみの部分がございます。これは外れないためにはとても重要な部分になっています。
頬の膨らみの部分
唇の膨らみの部分
見た目にも大切な部分で、歯を失ってしまわれた場合、骨も痩せてきます。
その骨の痩せた部分を補ってくれるのが、入れ歯の頬や唇側にある膨らみです。
この膨らみを与えてあげることにより、唇にシワがよらなくなったり、口元に膨らみを与えたりと、より若々しく見せるようにすることができます。
見た目の部分だけでなく、総入れ歯が外れないためにも大きく関わってきます。
お口を大きく開けてみてください。
そうすると、頬の筋肉と唇の筋肉が緊張します。
頬や唇側に適切な膨らみのある総入れ歯を入れた場合、この筋肉の緊張が総入れ歯の膨らみの部分に伝わり、お口を開けた時に外れないように支えてくれます。
総入れ歯に適切な頬や唇側に膨らみを与えることは、見た目の改善を良くするとともに、外れにくくする3つ目のポイントになります。
上の総入れ歯においては、この3つの要素をきちんと考慮して製作していくことがとても重要です。この3つの点をきちんと考慮に入れた治療をすることで、外れにくく、快適な総入れ歯となっていきます。
2、下の総入れ歯がお口を開けた時に外れない理由
下の総入れ歯は、上よりもどうしても難しくなっていきます。
なぜならば、上の総入れ歯には3つの要素で外れにくくできるというお話をさせていただきました。
しかし、下の総入れ歯には1つ少ない2つの要素しかございません。
下の総入れ歯の場合は上の総入れ歯と違って、ウォーターフィルム現象が起こるような場所はありません。
さらには、上には存在しなかった舌という食事する際などに動く筋肉がございます。
この舌で入れ歯を外してしまうなんてこともよくあります。
それ以外は、上の総入れ歯と同じような要素で外れにくくなってきます。
それでは2つの要素についてお伝えいたします。
①下の入れ歯のふち取りを大切にする
上の総入れ歯と同じで、お口の中の骨がある部分とない部分の境の所にふち取りをしてあげることで大切です。
矢印の部分などが下の総入れ歯の“ふち”
入れ歯を入れた際に、内部の空気が押し出され、内部に陰圧がかかり外れにくくなります。
②下の総入れ歯に大切な膨らみ
これも上の総入れ歯と同じで、お口を開けてみてください。
お口を開けると、下の頬と唇の筋肉と舌が緊張します。
下の総入れ歯の場合もこの筋肉の緊張を利用します。
つまり、下の総入れ歯の場合は、頬と唇の部分とお口を開けた時に舌が内側の膨らみに乗るように総入れ歯をつくっていきます。
頬の部分の膨らみ
唇の部分の膨らみ
舌の部分の膨らみ
そうすることにより、お口を開けた際に働く頬と唇と舌の筋肉の力が総入れ歯にかかり、入れ歯が浮かないような力をかけてくれます。
つまり、総入れ歯が外れにくくなってきます。
また、上の総入れ歯と同様に、頬と唇の膨らみ部分があることにより、口元をふっくらさせ、見た目もより若々しくキレイになっていきます。
3 上と下の歯が噛み合わせにより外れにくくする
今までお話しさせていただいたように、総入れ歯が外れないようにすることはとても重要ですが、食事の際に外れなくさせるために最も重要なのは、噛み合わせがきちんとされているかどうかです。
噛み合わせが悪い場合、噛まなければ入れ歯が外れてきませんが、噛むと外れやすいなんてことが起こってしまします。
これは総入れ歯の宿命なのですが、総入れ歯は上下的に外れなくすることは、先ほどの要素を踏まえて入れ歯をつくっていくことで解消されていくのですが、横からの力には弱いのが現状です。
つまり、噛み込んだ際に入れ歯が横ずれをしてしまうと、急に外れやすい入れ歯になってしまします。
なるべくそうならないようにするために、噛み合わせをきちんとつくっていく必要がございます。
どのように噛み合わせをつくっていくかと言いますと、噛み合わせをみる器械を使って総入れ歯を製作していくことが大切です。
噛み合わせの器械と総入れ歯
以上の点が、総入れ歯を外れにくくするための基本的な要素になってきます。
この要素取り入れた治療とはどういった治療なのかについては、次回詳しく書かせていただきますが、簡単にお伝えさせていただきます。
当医院では『上下顎同時印象法による総入れ歯』を採用させていただいております。
噛み合わせをみる器械とお口の中全体の型取りしたもの
この方法で総入れ歯治療をすることで、噛み合わせをみる器械を使うのはもちろんですが、お口の中の全体を把握し、どこに入れ歯を入れるスペースがあるのか、唇や頬の内側がどのようになっているのか、舌はどのようになっているのかを把握することができます。
それにより、今までお話しさせていただいた、外れにくくなるための要素を考慮した総入れ歯の設計をしていくことが可能になります。
総入れ歯治療を色々とされてこられてお困りの方、これから総入れ歯をとお考えの方の少しでもお役に立てる情報を発信させていただきながら、多くの悩まれている方のお役に立てればと思いますので、お困りの際はご相談いただければと思います。